Azel's Note

ある高校生の数学ノート。

「sinA+sinB+sinC > cosA+cosB+cosC」とその発展型「sinA+sinB > cosA+cosB+cosC」を幾何と代数の視点から考察する。

鋭角三角形{ \displaystyle ABC}において{ \displaystyle \sin A + \sin B+ \sin C > \cos A +\cos B + \cos C}を示せ、という問題がある。

最も一般的と思われる解法は、最大角をAに指定した上で{ \displaystyle \sin A> \cos A}を示し、和積公式を用いて{ \displaystyle \sin B+ \sin C > \cos B+\cos C}を示し辺々を加えるというものだ。

僕はあまり和積公式が好きではない。和積公式を使うべきとされる場面では、幾何的な性質が無視されることが多いからだ。

幾何という対称性と精緻性の宇宙がその後ろにあるにもかかわらず、(ごく一部の人間をのぞく、大多数の人間にとって)背景の不明瞭な代数的解法が最善策であるかのように教えることが、多くの高校生の三角比・三角関数嫌いを加速させている気もする。

三角関数は本来は幾何を由来とする概念なのに、それを用いるときに幾何を意識している高校生は非常に少ないように思う。言ってしまえば教師もだ。

僕は幾何フリークの一人として、この傾向を好きになれない。やはり三角比の問は、幾何を背景においてこそだと思う。

そこで、上の問題を出来るだけ幾何的なアプローチで解き、それと代数的な考察を結び付けてみることにした。

また、下に記す考察から得られる発展型{\sin A + \sin B >\cos A+ \cos B+ \cos C}も、幾何と代数の視点からそれぞれ考察してみた。

・sinA+sinB+sinC > cosA+cosB+cosCの証明


・幾何による証明

まずは幾何的な解法から。

「一般性を失わない」条件の追加は、本質的な部分を意識しないと難しいが、使いこなせると証明を大幅に簡略化できる。

「一般性を失わない」というのはつまり、問題で提示されている条件に対し不干渉ということだ。

例えば以下の解答では、本問が角度についてのみ言及する問であることを踏まえて、長さを固定している。


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{\displaystyle \triangle ABC }の外心を{\displaystyle O}{\displaystyle BC,CA,AB}の中点をそれぞれ{ \displaystyle D,E,F}とする。

ここで、{ \displaystyle \triangle ABC}の外接円の半径を1としても一般性を失わない。

円周角の定理より、{ \displaystyle \angle BOD = A}であり、従って{ \displaystyle BD=\sin A}

中点連結定理より、{ \displaystyle EF=BD=\sin A}、同様にして{ \displaystyle FD=\sin B},{ \displaystyle DE= \sin C}

また、{ \displaystyle OD= \cos A}、同様にして{ \displaystyle OE = \cos B,OF= \cos C}

ここで、{\displaystyle \angle EOF= B+C > \frac{\pi}{2}}であるから、

{ \displaystyle \triangle EOF}の最大辺は{ \displaystyle EF}で、従って{\displaystyle \sin A > \cos B}、同様に{ \displaystyle \sin B > \cos C,\sin C > \cos A}

これらの式を辺々加えると、{ \displaystyle \sin A + \sin B + \sin C >\cos A + \cos B + \cos C}が示される。


自然な解答だが、和積公式を使うものより遥かに美しい。

不等式を発展させる上で重要なことは{\displaystyle O}{ \displaystyle \triangle DEF}の垂心であることだ。

これによって、この記事で考察する不等式たちを{\displaystyle \triangle DEF}の垂心と各頂点との距離の和に関する式に帰着させることが出来る。


・代数による証明

5人にこの問題を見せれば4人はこういう解法を使うだろう。僕はあまり好きではない。


{ \triangle ABC}における最大角は{A}であるとする。

{ \triangle ABC}は鋭角三角形だから、{\displaystyle  \frac{\pi}{2} > A \geqq \frac{\pi}{3}}

故に、{\sin A > \cos A \cdots (1)}

和積公式より、{\sin B +\sin C -(\cos B +\cos C)= 2\cos \dfrac{B-C}{2}(\sin\dfrac{B+C}{2}-\cos\dfrac{B+C}{2})}

ここで、{B+C > \dfrac{\pi}{2}}であるから、{ \sin\dfrac{B+C}{2} > \cos\dfrac{B+C}{2} }

これと{\cos \dfrac{B-C}{2} \neq 0}より、{\sin B +\sin C > \cos B +\cos C \cdots (2)}

{(1),(2)}より、{ \displaystyle \sin A + \sin B+ \sin C > \cos A +\cos B + \cos C}


悔しいが、やはり和積公式は便利だ。テクニックとして確立されている。

実際大学入試では、和積公式がテクニックとして普及していなければ試験時間内に解ききることが難しい問も多い。


・幾何と代数の対応

ここからが本題だ。本項では幾何的な解法と代数的な解法の類似性を指摘し、その奥に潜む同値性の認識を確かにしたい。

数学において、同じ問題に別の手法からアプローチすることは、音楽において、同じ曲を別の楽器で奏でることに似ている。

楽器を弾くことはそれだけでも楽しいが、複数の楽器の音色があれば、曲はより美しくなる。数学でも同じことが言えると思う。


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この図は、上の幾何による証明の項で用いた図に必要な加工を施して拡大したものだ。

なお、代数による証明との折り合いのために、角{A}が最大角となるように作図してある。

上の2つの証明にはすぐにわかる共通点がある。「B+Cが鈍角」という条件を使っているところだ。

まず、幾何による証明で用いた手法を思い返してほしい。

そこでは{ \displaystyle \triangle EOF}の最大辺が{ \displaystyle EF}であることを用いて、{\displaystyle \sin A > \cos B}を示した。

このとき、{ \triangle EOF}が鈍角{\angle EOF}を最大角とする三角形であることを用いた。

つまり、言い替えれば、この図でいう>を示すために「B+Cが鈍角」を用いたのだ。

次に、代数による証明での途中式を引用すると、

{\sin B +\sin C -(\cos B +\cos C)= 2\cos \dfrac{B-C}{2}(\sin\dfrac{B+C}{2}-\cos\dfrac{B+C}{2})}であり、

{ \sin\dfrac{B+C}{2} > \cos\dfrac{B+C}{2} }を示せれば良いのだった。

この、{ \sin\dfrac{B+C}{2}}{ \cos\dfrac{B+C}{2}}にそれぞれ対応するのは、この図のだ。

つまり{ \dfrac{B+C}{2} > \dfrac{\pi}{4} \Leftrightarrow B+C > \dfrac{\pi}{2} }を示せばよく、これも「B+Cが鈍角」という条件に帰着するのだ。

これで幾何と代数双方の証明の共通性を図形的に記述できただろう。


・sinA+sinB > cosA+cosB+cosCの証明


・幾何による証明

さて、ここで上の項の{ \triangle DEF}をみていると、どうも{\sin A + \sin B >\cos A+ \cos B+ \cos C}や、

{\sin B + \sin C >\cos A+ \cos B+ \cos C}も成立しているように見える。

角をうまく選ばずとも成立するあたりが美しい。まずはトレミーの不等式を用いて証明してみる。


以下の図は{ \displaystyle \sin A + \sin B + \sin C >\cos A + \cos B + \cos C}での解答図を拡大し必要な点を追記したものである。

点の定義などは同様のものを用いているため、必要なければ特記しない。

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{\displaystyle XE=OE,YF=OF}を満たす2点{\displaystyle X,Y}をそれぞれ{\displaystyle DE,FD}上にとる。

ここで図のように、角度{\displaystyle \alpha,\beta,\gamma}を定めると、{\displaystyle \angle XOY= \alpha +\beta +\gamma= \frac{\pi}{2}}となるから{\displaystyle XY>OX,OY}

トレミーの不等式より、{\displaystyle OX\cdot DY +OY \cdot DX > XY \cdot OD}なので、

従って{\displaystyle XY \cdot DY + XY \cdot DX > XY \cdot OD}、辺々を{ \displaystyle XY}で割って{\displaystyle DY+DX>OD}

辺々に{XE=OE,YF=OF}を加えると、

{\displaystyle DE+FD=XE+YF+DX+DY>OD+OE+OF}

{ \displaystyle FD=\sin B,DE= \sin C, OD= \cos A,OE = \cos B,OF= \cos C}であるから、

{\sin B + \sin C >\cos A+ \cos B+ \cos C}が示された。

同様にして{\sin A + \sin B >\cos A+ \cos B+ \cos C}等も示せる。


あまり美しくない。とりあえず等しい長さをとって、公式で強引に示しただけだ。

トレミーの不等式は高校では習わないし、受験数学におけるテクニックとしても一般的ではない。

特に受験数学にこだわるわけではないが、やはり美しいとは言い難い。

他の証明を考えるのは非常に難しく、周辺の考察も含め、なかなかに時間を要した。

以下が発見した第二証明である。点の設定の背景は、これまでの証明のものを引き継いでいる。

熟考の末に図が整頓されたために簡単に思えるが、非常に複雑な背景のもと生まれた図形である。


以下の図は動かせます、{D,E,F}をドラッグで動かしてみてください。

GeoGebraがうまく動作しない人向けに静止画の図もおいておく。

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図のような点{P,Q,R,X}を考える。

{DE+FD>OD+OE+OF \Leftrightarrow DE+PR>PE+ER+RD}を示せばよい。

(つまり+>++を言いたい。)

三角不等式より{EX+XR>ER~~~~\cdots (1)}

{\angle XRD = \angle XEP = \dfrac{\pi}{2}}より、{XD>RD,XP>EP~~~~\cdots (2)}

{(1),(2)}より、{DE+PR>PE+ER+RD}

よって{DE+FD>OD+OE+OF}は示された。


図形の対称性を活用した証明法。

トレミーの不等式を用いるものに比べてより美しく、知識も初等的なもので済む。

恐らく、これ以上簡単な初等的説明を与えるのは不可能に近いのではないか(同等のものは探せばあると思う)。


・代数による証明

{ \displaystyle \sin A + \sin B+ \sin C > \cos A +\cos B + \cos C}の和積公式を用いた証明はあまり美しくなかった。

しかしこの不等式は非常に美しく示すことができる。積を使って { \cos C}を合成するところが要だ。


{A+B > \dfrac{\pi}{2}}より、{ \dfrac{\pi}{2} > A > \dfrac{\pi}{2}-B}であるから、

{\sin A > \sin (\dfrac{\pi}{2}-B) \Leftrightarrow \sin A > \cos B }、同様に{\sin B > \cos A}

従って、{ (1- \cos A)(1- \cos B)>(1-\sin A)(1-\sin B)}

展開して整理すると、{\sin A + \sin B > \cos A + \cos B - (\cos A \cos B - \sin A \sin B)}となり、

加法定理の式を用いれば{\cos A \cos B - \sin A \sin B = \cos(A+B)=-\cos C}だから

従って、{\sin A + \sin B >\cos A+ \cos B+ \cos C}


非常に抽象的な話題かつ詭弁だが、

最初の問の代数による証明で、{\sin A}{cos A}の組から考え始めたように、

同じ条件を引数にもつもの同士の対応関係を考えるのが最も素直な解き方だと思う。

しかし実際はこの証明の{\sin A}{\cos B}のように、

別々の引数をもつものを対応させた方が簡単に済む場合も多いと思う。

三角形の内角を偏角とする三角関数などは特にだ。

恐らく、引数どうしがある程度互いに制限をかけているのが理由の一つなのだと思う。

三角形の内角なら{A+B+C=\pi}などの条件がこの「制限」にあたる。

イメージとしては、前者の解き方は「線対称」、後者の解き方は「点対称」のようだ。

後者は巴のイメージもしっくりくる。


・総括

恐らく多くの高校生が幾何的な背景を意識せずに解くであろう三角関数の不等式を、

その原点に立ち返って幾何的に考察することで、深い理解を得ることが出来た。

幾何という図示によって、視覚的に新定理を予想し、非常に簡単な図形でそれを示すこともできた。

僕自身色々と得るものがあったので非常に満足している。