Azel's Note

ある人間の数学ノート。

数学科の学生が東大実戦模試の難問をタイムアタックしてみた&速く解くコツを解説

この春から数学科(東大ではない)に入学した僕ですが、いろいろな事情で殆ど大学に通えておらず、なんだかんだ殆ど数学を触らない日々が続いています。 趣味から遠ざかるのは精神衛生上良いことではないので、久しぶりに数学でも触ろうと思いYoutubeで良い題材を探したところ

www.youtube.com

面白そうな問題を発見。 再生開始後即ストップして僕もタイムアタックしてみました。結果から言うと15分1秒です。(追記 : ちなみにこの記事を書くのにはほぼ4時間かかりました! これぞ本末転倒! )

所要時間はアバウトに前半一枚8分、後半一枚7分くらいです。図示に時間をかけすぎたので15分をオーバーしました...

上の答案を見て分かる通り、特に記述を意識して解いていないことから、本番同様の記述答案を作成するとなると25分そこらはかかると思います。考えるのが速い人はもう少し速く解けます。僕は考えるのにもそれなりに時間を使ってしまった。


◆ 問題

二つのグラフC:y=ax^2+bx (a>0,b<0),D:y=x^3が共有点を3つ持つとする。C,Dで囲まれる二つの領域の面積について、左側の面積と右側の面積の比が5:32であるようにCが動くとき、Cxy平面上での通過領域を求め、図示せよ。(駿台東大実戦模試)

※ 動画から要旨を汲んで適当に問題文を補完したので、原文とは表現が異なるかもしれません。


◆ 解答と講評

◆ 解答

C,Dが3つの共有点を持つための条件は、x^3-ax^2-bx=0が異なる3つの実数解を持つことである。

この式はx=0を解に持つので、左辺のxでない因数x^2 -ax -bx=0でない根を持つことがこのための条件であるが、b \lt 0よりx=0は明らかに根でないので、x^2-ax-b=0の判別式からa^2 +4b >0とすれば必要十分。

更にx^2 -ax-bの根を小さい順に\alpha,\betaとおくと、

この式の値がx=0で正であり(\because b \lt 0)、かつ\dfrac{a}{2}>0 ~(\because a >0)であることから0 \lt \alpha \lt \betaが言える。

以下この下で、"左側の面積"をS、"右側の面積"をTとおく。*1

部分積分法を繰り返し用いて

\displaystyle{ \int x(x-\alpha)(x-\beta) dx = \dfrac{1}{2}x^2 (x-\alpha)(x-\beta)- \dfrac{1}{6}x^3 \{ (x-\beta) + (x-\alpha) \} +\dfrac{1}{24} x^4 \cdot 2 +C \cdots (\star)}

とできるので、実際に計算すればS=\dfrac{1}{12}\alpha ^3 (2\beta-\alpha),T=\dfrac{1}{12}(\beta ^2 -\alpha^2)(\beta -\alpha)^2を得られる。*2

S:T=5:32だから、\alpha^3 (2\beta -\alpha):(\beta^2 -\alpha^2)(\beta -\alpha)^2=5:32

t=\dfrac{\beta}{\alpha} (t>1)と置くと、*3 5(t+1)(t-1)^3=32(2t-1)とでき、*4 これはt=3を解に持つ *5

更にs=t-1 (s>0)と置き *6 整理すれば(s-2)(5s^3 +20s^2 +40s+16)=0

s>0に対し明らかに5s^3 +20s^2 +40s+16>0であるので、この式のs>0なる解はs=2のみであり、これを与えるtt=3である。

ここで、根と係数の関係より\alpha+\beta=a,\alpha \beta=-bが得られ、これとt=\dfrac{\beta}{\alpha}=3から、\alpha=\dfrac{1}{4}a,\beta=\dfrac{3}{4}aがわかる。

したがって、b=-\dfrac{3}{16}a^2がわかり、\alpha,\betaの存在条件a^2+4b >0が常に成立することも分かる。

したがって、題意の領域を得るには実数aa>0の範囲を動くとき、y=ax^2-\dfrac{3}{16}a^2xxy平面上で掃過(sweep)する領域を求めればよいとわかる。*7

aについて整理すると3xa^2-16x^2a+16y=3x(a-\dfrac{8}{3}x)^2 -\dfrac{64}{3}x^3+16y=0 であり、この方程式がa>0に少なくとも1つの解を持つためのx,yの条件が求める通過領域を表すので、以下これを求めることを考える。左辺をf(a)とおくと、

(i) 3x=0すなわちx=0のとき

 代入して計算すると、y=0となるので、条件(x,y)=(0,0) \cdots (a)を得る

(ii) 3x>0すなわちx>0のとき

-(A) 二実解を持ち、解の一方のみがa>0を満たすとき

 「f(0)=0 \land \dfrac{16}{3}x>0\lor f(0)\lt 0すなわちf(0) \leq 0 (\because x>0)

-(B) 全ての解がa>0を満たすとき

 f(0)>0 \land \dfrac{8}{3}x >0 \land (16x^2)^2 -4\cdot 3\cdot 16 xy  \geq 0 すなわちf(0)>0 \land y \leq \dfrac{4}{3}x^3 (\because x>0)

(A),(B)併せて、x>0 \land y \leq \dfrac{4}{3}x^3 \cdots (b)を得る

(iii) 3x \lt 0すなわちx \lt 0のとき

-(A) 二実解を持ち、解の一方のみがa>0を満たすとき

 「f(0)=0 \land \dfrac{16}{3}x >0 \lor f(0)> 0 すなわちf(0) > 0 (\because x \lt 0)

-(B) 全ての解がa>0を満たすとき

 f(0)\lt 0 \land \dfrac{18}{3}x >0 \land  (16x^2)^2 -4\cdot 3\cdot 16 xy  \geq 0であればよいが、x \lt 0はこれを満たさない。

(A),(B)併せて、x<0 \land y>0 \cdots (c)を得る

(a),(b),(c)を図示すると下図のようになり、これが求める領域である。(ただし実線・黒点を含み、破線を含まない)


どのように考えながら解いたのかを補足するために、記事最下部に非常に長い脚注を付けてあります。解答の随所にあるページ内リンクで該当する脚注に飛べるようにしてあるのでご覧ください。


◆ 講評

タイトルでは便宜上「難問」と呼びましたが、実はこの問題はさほど難しい問題ではありません。

解答の流れとしては「左:右=5:32という捉えにくい条件を、具体的で分かりやすいa,bの条件に変形する→通過領域の問題として定式化し直して解く」になるわけですが、問題の骨格たる後半は実は楽勝で、東大模試を受けるような学力層ならほぼ全員が解けるであろうものです。

大変なのは、本来枝葉の部分のはずの前半部で、多くの人が計算で挫折したと思われます。処理は有りふれたものですが、工夫して計算しないと大変に混乱させられる計算です。

つまりこの問題は「解き方が分からない」のではなくて「解き方は分かるが、時間内に実行できない」という意味で厄介なのです。実際、元の動画でも「計算がえぐい」問題として取り挙げられています。見方を変えれば、この計算さえ楽に終わらせられれば特に難しくはないということです。

動画では、多項式を部分的に展開し、因数x-\alpha,x-\betaを持つ項とそうでない項に分けてから積分するという数学II的な方法*8でこれを解決されていました。一方僕の解法は数学III的な方法である部分積分法を用いて解いていますので、数IIIを履修していないと使えないという点では劣っています。(数IIIを履修しない文系の学生がこの動画より早く解くのは神懸かり的な発想力、或いは計算力がない限りは事実上不可能だと思います。もしこの動画を上回るペースで解けるなら、非常に恵まれた能力があります。理転して数学科に進むことを勧めます笑。)


◆ 速く解くためのコツ


◆ 部分積分による面積計算

センター試験対策などで、\dfrac{1}{3},\dfrac{1}{6},\dfrac{1}{12},\cdots公式なるものを覚えたり覚えさせられたりした、或いはしていませんか。

これらの公式とほぼ同じ速さで計算できる上に、暗記が不要で応用も効くのが部分積分による面積計算です。

数IIIで習う公式に{\displaystyle \int f'(x)g(x) dx=f(x)g(x)- \int f(x)g'(x)dx } (部分積分法)があります。

これを繰り返し用いれば、俗に瞬間部分積分と呼ばれる積分が可能になります。(これについては裏技!瞬間部分積分! | 受験の月を読んでください。)

この方法のメリットは、被積分関数因数分解された形のまま積分できることです。展開しなくて済むし、代入計算が楽になるのです。例えば本問ではf(x)=xとして積分g(x)=(x-\alpha)(x-\beta)として微分することで、(\star)を得られ、S,Tの計算を

{\displaystyle S=\int_0^\alpha x(x-\alpha)(x-\beta)dx= \left[  \dfrac{1}{2}x^2 (x-\alpha)(x-\beta)- \dfrac{1}{6}x^3 \{ (x-\beta) + (x-\alpha) \} +\dfrac{1}{24} x^4 \cdot 2 \right]_0^\alpha  }

=0-\dfrac{1}{6}\alpha ^3(\alpha-\beta)+\dfrac{1}{12}\alpha ^4+0+0+0=\dfrac{1}{12}\alpha ^3 (2\beta-\alpha)

{\displaystyle T=-\int_\alpha^\beta x(x-\alpha)(x-\beta)dx=- \left[  \dfrac{1}{2}x^2 (x-\alpha)(x-\beta)- \dfrac{1}{6}x^3 \{ (x-\beta) + (x-\alpha) \} +\dfrac{1}{24} x^4 \cdot 2 \right]_\alpha^\beta  }

=0+\dfrac{1}{6}\beta^3 (\beta-\alpha)-\dfrac{1}{12}\beta ^4 +0 -\dfrac{1}{6}(\alpha-\beta)+\dfrac{1}{12}\alpha^4=\dfrac{1}{12}(\beta ^2 -\alpha^2)(\beta -\alpha)^2

と出来るのです。展開するより圧倒的に速いですよね。

◆ 置き換え

多分この解法の一番馴染みのない部分は「t=\dfrac{\beta}{\alpha}」の置き換えです。脚注にも書きましたが、要となる部分なので本文でも説明しておきます。

全体を通して、「t=\dfrac{\beta}{\alpha}」と「s=t-1」の二回の置き換えを行っています。

前者は斉次式(同次式)の置き換え、後者は構造の置き換え(と僕が呼んでいるもの)です。

基本的に"数I・II的な"置き換えは三種類に分類でき、それぞれの概要は以下の通りです。

1. 構造の置き換え

 同様の構造が複数現れるときに、よりマクロな構造を浮き彫りにするために行うもの。例えば(x^2+2x)^2 -2(x^2+2x)+1因数分解するとき、一度A=x^2+2xと置いてから

 (x^2+2x)^2 -2(x^2+2x)+1=(A+1)^2=(x^2+2x+1)^2=(x+1)^4とする場合がありますが、これはこのタイプです。

 この例のように因数分解なら誰でも出来るのですが、実際に解答の簡略化のために用いることのできる人は意外と居ません。例えば、

全ての実数xに対し、x^3 -3x^2+7=a(x-2)^3 +b(x-2)^2+c(x-2)+dが成立するように実数a,b,c,dを定めよ。(福島大学)

 のような問題では、多くの人が右辺の各項を展開しようとしますが、t=x-2などとおけば左辺の簡単な展開だけで済みます。試してみてください。

 (x=2を代入→両辺をx微分する→x=2を代入の繰り返しで必要条件からa,b,c,dを求めるのが一番ありがちかつ楽な解法なので、実は置き換えの必然性はありません。)

2. 対称式の置き換え

 一般的にはx+y,xyx+y+z,xy+yz+zx,xyzを新しい文字として置き換えるものをこのように呼ぶようですが、柔軟に解釈すれば、高校数学に頻出する置き換えの殆どをこれに分類できます。

 t=\sin \theta + \cos \theta (三角関数の最大最小でよくあるアレ)も対称式の置き換えだし、t=x+\dfrac{1}{x} (相反方程式でよくあるアレ)もt=a^x+a^{-x} (指数関数の定番、何故かセンター試験で出題されたことがない)も対称式の置き換えに分類できます。

 どれも積が見当たらないので対称式だとは一見分かりませんが、これらは元々一変数のモノを置き換えているので、最終的に表れるものも一変数になっているだけです。例えばt=\sin \theta + \cos \thetaでは、積は\sin \theta \cos \theta=\dfrac{t^2 -1}{2}と出来ますし、最後の二つは単に積が1になります。なお、最後の二つは根本的には同種の置き換えと考えて良いです。(\because xa^{x}を交換すれば同じである)

3. 斉次式(同次式)の置き換え

 上で述べたように多くの置き換えは対称式として捉えられますが、斉次式の置き換えはこれらとは少し毛色が違うものなので、あまり馴染みが無いのだと思います。

 二変数分数関数の最大最小問題で「k=\dfrac{x}{y}」のような置き換えを見たことはありませんか。実はこれは斉次式の置き換えの数少ない例かつ最も多く見かける例です。脚注でも述べているように、1995年東大数学第一問など、難関大入試ではたまに出題される物のようです。

 理念としては「ある文字及び文字群に着目したとき、各項の次数が全て等しければ一文字消去可能」というものです。具体的な例は同次式② 比の置換 | 受験の月を参照。

数式処理の簡略化のためには、この3種類の置き換えが適用出来ないか常に考えながら進むのが重要となります。(と言いつつも、僕は常に気を張っているわけではなく、経験則と論理で「この文字を消去したら対称式になるはず」とか「部分積分して代入したから全項斉次のはず」と言う風に、要所要所で展開を予測しながら解くタイプです。つまり慣れと勘。)

*1:ここまでの議論は有り触れたことしかしていません。"左側の面積"と"右側の面積"が存在するための前提となる条件を判別式から求めただけです。強いて言えば0 \lt \alpha \lt \betaが重要で、この前提が無いとS,Tを求めるための積分式が変化してしまい議論が破綻します。

*2:原始関数を(\star)の形にして定積分を行えば、多くの因数が0となるので非常に簡単な式になります。これはその結果を因数分解しただけです。大幅に省略したような印象を受けるかもしれませんが、実際に計算すれば容易に分かるので試してみてください。なお、上のような形の原始関数は部分積分法を繰り返し用いることにより容易に得られます。詳細は裏技!瞬間部分積分! | 受験の月を参照されたし。裏技と呼ばれてこそいますが、高校数学の範囲内で十分明らかな式です。動画のコメント欄に「β関数の積分公式使えば楽勝」みたいなのがありましたが、オイラー積分の一般型を覚えてる人なんて本当に居るんですね、驚愕に値します。もちろん僕は覚えてないです...

*3:斉次式、同次式の置き換えです。そもそもコレを知らない人が割と多いと思います。進学校でない限り授業で扱わないのがこの一因で、僕も高校で習った覚えはありません。僕自身は1995年の東大の問題を通して初めて知りました。名古屋大の過去問にも斉次式の置き換えが事実上必須のものがあったと思います。この問題の元ネタの動画(最初に貼った動画)のコメント欄にも斉次式の置き換えに驚愕するコメントが大変多いですが、旧帝大を受験するなら知っておくべきことです。僕の経験上、整数問題でも応用できる場面があります。この事実を載せた文献は見たことがないのであまり自信がありませんが笑。この置換の詳細は同次式② 比の置換 | 受験の月参照。

なお、t=\dfrac{\alpha}{\beta}ともt=\dfrac{\beta}{\alpha}とも置くことが出来るのに後者を選択したのは、前者だと0 \lt t \lt 1になってしまいtが整数になり得なくなるからです。もちろん最終的に得られる結果は変わりませんが、tが整数になり得ないと、tに具体的な値を代入して解を探すという作業が面倒になります。t=\dfrac{1}{3}を代入して計算しなきゃならないのは嫌ですよね。まあ、逆数で考えるなり通分するなりすれば同様の議論に帰着するんですが、それなら初めからt=\dfrac{\beta}{\alpha}と置く方が手っ取り早いという考えです。

*4:この時点で、問題は一時的にt>1 \land 2t-1:(t+1)(t-1)^3=5:32を満たす実数tを求めるものへと再定式化されています。

*5:ここでは、tは整数になるだろうと見当をつけ、整数解tを求める作業を頭の中で行っています。決して闇雲に代入したり、閃きで解いているわけではありません。2t-1が必ず奇数になるので、まず右辺の2の指数は5に確定します。したがって左辺5(t-1)^3(t+1)が2を"ちょうど"5つ因数に持つ必要がありますが、t-1が2で2回以上割り切れる場合、左辺の2の指数が6以上になり不適です。左辺全体の2の指数は「t-1の2の指数×3+t+1の2の指数」に一致しますが、t-1の2の指数は1でなければならないので、t+1の2の指数は2でなければなりません。したがってt+1=4が第一の候補となり、実際にこれが解となります。

*6: 別にtのまま解いても構わないんですが、展開が面倒だし、t=3を解として求めた時点で、これ以上t>1を満たす解がないことを予想していたので、このときの実質的な目標はこの事実を示すことでした。仮に別の値も解になったら、通過領域の計算が単純に二倍になり、幾らなんでも面倒すぎるからです。予想ではなく希望的観測と言った方が良いかもしれませんが笑。したがってこの式が他に条件を満たす解を持たないことさえ言えればよく、t固執する意味はないので、考えやすいようt-1を別の文字で置いてみました。t-1を選んだ理由は、単純に計算しやすく、しかもt>1 \Leftrightarrow s>0となり議論が楽になるからです。

*7:これでやっと前半部の目的「単なる通過領域の問題への定式化」が終わりです。ここまで来れば東大受験者で無くとも多くの人が解けるであろう。ここからは、大雑把には順像法で捉えるか逆像法で捉えるかの二択になるわけですが、式が簡単なので逆像法を用います。(※ あまりに複雑な式では、解の存在範囲を求めるために微分や定数分離を用いる必要があり、逆像法による議論ではしんどいこともあるので、楽な解法ではあるものの、せいぜい二次方程式の解の配置に帰着できる範囲で用いるのが賢明だと僕は思います。)

*8: "\dfrac{1}{6}公式"の証明で用いる手法として有名ですね。